ハーニー氏は、2年を費やして労働者や工場の経営者、中国で暮らす海外投資家に取材してまとめた著書『The China Price: The True Cost of Chinese Competitive Advantage(チャイナ・プライス:中国競争力の真のコスト)』で、中国製造業の成長を支えた労働者の実態を詳細に分析した。
ハーニー氏によると、かつて無尽蔵とも思われた広東省など中国南部への労働者の流入は、今では減少しているという。それに伴って賃金が上昇し、中国製のテレビや玩具、衣料品などの価格も上がっている。
「10-15年前には、労働者が工場の前に列をなしていた。工場で働けるのは幸運なことだった。しかし最近では、多くの工場がボーナスを払って従業員を地方に送り出している。工場で働くよう家族を説得して、連れてこさせるためだ」
■雇用情勢が変化
30年前に経済開放を始めた中国にとって、急成長する輸出部門は最大のサクセスストーリーの1つだった。外国企業は地元工場と契約したり、自ら工場を操業したりして、食器や下着、半導体から家具まで幅広い製品を製造してきた。
中国の輸出産業の成功は安い労働力にあった。農村地域の貧困から脱出しようと仕事を求める人々が中国全土から流入し続けたことで労働コストは低い水準で維持された。
当時の中国国内の人口移動はおそらく人類史上最大の規模で、約2億人の労働者が世界に向けて輸出製品を製造していた。ハーニー氏はこういった「非常にパワフルだが、無名の人々」の集団に関心を寄せた。
2004年以降、中国政府の「一人っ子政策」の影響で10代の若い求職者が減少し、労働力が減り始めたことで労働者の力は増大し始めた。
労働者が減少すると必然的に賃金が上昇する。ハーニー氏によると、年収が2割ほど増加したケースもあるという。そこに原材料の高騰が重なり、中国の製造業は危機的な状況におちいった。
「ここ数年間の賃金上昇や原材料価格の上昇、労働者の権利意識の高まりといった動きに人民元高が加わって、中国の製造業はまさに嵐のなかにある」
もっとも、企業側が問題を誇張している部分もあると言う。例えば、最近1万5000件の工場が閉鎖されるというニュースが伝えられたが、これは新たな労働法を骨抜きにすることを狙ったものだと言う。しかし、ハーニー氏は、力の均衡が労働者側に傾いてきていることに、ほとんど疑いはないと考えている。
「数年間の労働力不足を経験した工場を訪問すれば、以前よりも労働環境が良くなっていることに気付くだろう。5年前の工場責任者は労働者は余るほど手に入ると考えていた。今では、労働者を逃がさないよう、また労働者をやる気にさせるよう気を配らなくてはならない」
■「チャイナ・プライスは上がっていく」ハーニー氏は、労働者の権利意識は向上しているものの、中国政府公認の労働組合に対抗するような目立った運動が起こるほどではないと述べる。
労働力不足によって、あらゆる業界で労働力の需要が非常に高まっているため、出稼ぎ労働者の中には大きなチャンスを手にした人もいる。たとえばハーニーさんの友人になったという20歳の女性は、中学校しか出ていないにもかかわらず、1日18時間労働のセーター工場から、不動産販売業への転職を果たしたという。
ハーニー氏は、こういった労働者が集団として今後どのような道を選択するかによって、彼らの人生だけでなく、安価な製品の時代の行く末が決まると考えている。
新たな労働力を獲得するため、現在、多くの工場が中国内陸部へ進出している。アジア地域で中国と競争する国々の中には、ベトナムなどのように中国より安い労働コストを実現している国も出てきた。
ハイテク製品などバリューチェーンの上流に移行する工場もあるだろうが、それができない工場は淘汰されるだろう。ハーニー氏は「チャイナ・プライスは上がっていく」と語った。
いつまでも同じような産業では成長はない。
産業構造が変わり、労働者の質も変化していく。
大きな経済発展には、歪みも見られるが、
経営者と労働者の双方が豊かになるところに
究極のポイントがあり、国の政策の肝でもある。
歪みや格差が許容範囲内であれば、
国も富み、安定した国家となる。
みだりに、格差を容認したりして、
一歩政策を誤れば、米国や日本のようになる。
先例があるだけに、
今後の中国の政策には関心が高まる。
